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2011年度会員年間業績を公開しました

2011年度会員年間業績リスト(2011年1月-12月)を公開しました。
 広い意味での西洋中世(古代末期-近世、イスラーム、ユダヤ、中東アジアなども含む)に関する刊行された業績をお知らせいただいたものです(氏名=五十音順)。
なお、リスト作成に際しては、会員の皆様にお手数いただきました。お礼申し上げます。

2011年度若手支援セミナー・ポスターセッションの報告記を掲載しました

イベント報告
西洋中世学会 若手支援セミナー企画 ポスター・セッション +
原 基晶さん(『チェーザレ 破壊の創造者』監修者) による時代考証を巡るトーク

2011年8月30日の午後、上記のイベントが、慶應義塾大学日吉キャンパスを会場にして開催されました。ポスター・セッションは人文系の学会ではいまだ一般的になっているとは言えませんが、本イベントは、参加の敷居は低く、形式はカジュアルに、しかし深い意見交換を可能にするフォーマットとしてポスター・セッションを活用することで、学術的コミュニケーションの新しい可能性を模索することを目指しました。加えて、ダンテ研究者でありつつ、『チェーザレ-破壊の創造者』の監修者として時代考証にあたられている原基晶さんにお話しいただきました(開催企図などの詳細については、案内のサイトをご覧ください)。当日は92名の参加者を数え、盛況を博しました。また、Ustreamで中継された原さんのトークにも100名を超える視聴者がありました。

以下、二名の方の参加記とアンケートに記入された報告者と参加者の感想を掲載します。なお、ポスター報告者およびポスターのタイトルは以下の通りです。

  • 有田 豊 (大阪市立大学大学院博士後期2年)
    ヴァルド派の集団意識―中世から宗教改革以後にかけての変化―
  • 内川勇太(東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻(西洋史学)修士1年)
    エセルレッド・エセルフレド治世 (879-918) のマーシア宮廷―チャーターの分析によるその連続性と独立性―
  • 小川真理(明治大学)
    中世文学における友情の諸相
  • 河野雄一(慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士3年)
    エラスムス『対トルコ戦争の考察』における寛容と限界
  • 菅野磨美(慶應義塾大学大学院・日本学術振興会特別研究員後期博士2年)
    中英語聖人伝 The South English Legendary におけるローカリティと女性
  • 衣笠弥生(京都大学大学院人間・環境学研究科)
    アントネッロ・ダ・メッシーナ作《受胎告知のマリア》―正面性とクローズアップから見る図像の源泉―
  • 木村晶子(中央大学大学院博士2年)
    8-9世紀アイルランドの聖界権力としての修道院教会
  • 工藤義信(慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻博士1年)
    チョーサーの『カンタベリー物語』と中世後期の社会集団のアイデンティティ
  • 斉藤陽介(東北大学大学院文学研究科歴史科学専攻博士前期2年)
    アングルにおける影―宗教画作品における利用をめぐって―
  • 坂下拓治(慶應義塾大学大学院文学研究科史学専攻修士課程1年)
    スコットランド王ロバート1世治下の証書発給について―特に、王璽の役割から見て―
  • 佐藤龍一郎(京都大学大学院人間・環境学研究科共生人間学専攻修士課程2年)
    ヤン・ファン・エイク《ロランの聖母》に関する考察-下絵素描からの再解釈-
  • 白幡俊輔(関西学院大学)
    16世紀イタリア・フェッラーラの大砲製造と都市計画の関係について
  • 関沼耕平(東京大学人文社会系研究科欧米系文化研究専攻(西洋史学)修士2年)
    第一回十字軍における十字軍関連証書研究-南仏の事例から
  • 趙 泰昊(慶應義塾大学大学院文学研究科修士2年)
    ロマンス・パロディとしての『トロイラス』とボッカッチョの『イル・フィローコロ』
  • 仲田公輔(東京大学大学院人文社会系研究科修士2年)
    軍事書『タクティカ』とレオン6世治世期(886-912年)ビザンツ帝国における東方辺境
  • 仲間 絢(京都大学大学院人間・環境学研究科修士2年)
    中世ドイツにおける雅歌の受容
  • 永本哲也(東北大学大学院文学研究科)
    1534-35年北西ヨーロッパ宗教改革運動における再洗礼派の人的つながり―下ライン地方、南部ネーデルラント、ミュンスターの再洗礼派の相互関係を中心に―
  • 濱野敦史(首都大学東京大学院博士後期3年)
    15世紀フィレンツェにおける奴隷の解放過程についての一考察―ローマ法の規定を手がかりに―
  • 福永新一(東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻(西洋史学)修士1年)
    シャルル6世のラングドック行きにみる中世後期のフランス政治社会
  • 古川誠之(早稲田大学)
    聖なるコミュニティ:ドイツ都市印章の表象
  • 堀 美里(慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻修士2年)
    Synonyms of ‘Lord’ in Beowulf and Sir Gawain and the Green Knight
  • 村田光司(名古屋大学文学研究科修士2年)
    13世紀ビザンツ帝国における皇帝の「指令文書」

[参加記]

坂下拓治

2011年8月30日、慶應義塾大学日吉キャンパスで西洋中世学会ポスター・セッションが開催され、私も報告する機会を得るができた。ここでは、修士1年の報告者という立場からポスター・セッションを振り返ってみたい。

人文科学の分野ではポスター報告はまだ珍しく、私自身も発表することはもちろんのこと、聞く側としても参加したことがなかったので、何もかも手探りの状態だった。しかし、感想を一言で表わすならば「報告して良かった」に尽きる。まず、報告の準備段階で、すでに一定の成果が感じられた。報告するためには当然テーマを絞り込まねばならないが、使う史料は決まっていたもののテーマは漠として定まらないような状態であった。しかし、報告をしなければならないという前提で文献を読むと、そうでない状態に比べてはるかに高い問題意識を持って取り組むことができ、普段は何気なくやり過ごしてしまうような重要な点に気がついたりした。また、周囲にいる諸先生の助けを借りて報告内容を作成していくうちに、問題がより特化されていき、それを解くための手続きが次第に明確になっていくことも感じられた。

そして、実際の報告の場も大変有意義な時であった。ポスター報告の何よりの特徴は、報告者と聞き手の「近さ」である。それゆえ、大きな会場の発表では一方通行になりがちなやりとりが、ここでは「議論」という形になる。確かに、私が一通り説明し、聞き手の方が質問し、それに私が答えるという一応の定石はある。しかしその定石は捨て去るべくして存在しているようなものであり、それがポスター報告の醍醐味であろう。例えば、私も聞き手の側に質問できる。私の説明を途中で遮って聞き手の方が質問したり合の手を入れたりするのもありである。このような、一往復では終わらない、何度もやりとりされる議論を通じて、自分の考えが深まっていくことが実感できた。また、普段は発表を聞いていただくことの叶わないような方々に、私の発表を聞いてもらえたことも大変大きかった。テーマは似ているけど時代や地域が違う方、地域は同じだけれどもテーマが違う方、あるいは、単純に遠くに所在している方。このような方々に発表を聞いていただく機会はほとんどないが、こういう方々の意見こそがアイディアの宝庫であり、普段はあり得ないような思考のスイッチが入ることがある。実際、今後の研究に役立つような貴重な意見を多く頂戴することができた。分野を横断した西洋中世学会の素晴らしい長所の一つであろう。

もちろん、以上のような良い点だけでなく、反省すべき点もいくつもあった。一つは、ポスターという媒体の性質や利点を上手く利用できなかったことである。私の作ったポスターや発表のやり方は、ただ単にレジュメを使用した発表とほとんど変わらないものであり、A0のスペースを視覚的アピールのために使うことができなかった。二つ目は、興味のある他の報告を聞くことができなかったことである。「ポスター作成についてのガイドライン」にはその対処についても言及されていたが、私の準備不足と当日の会場の雰囲気に飲まれてしまったため、上手に行動することができなかった。

他にも反省点はあるが、それらを踏まえても、総じてとても有益なポスター・セッションであった。研究のテーマが絞り込めていないような修士1年のすべての方々に、報告することをお勧めしたい。私自身、もしも機会が与えられれば、今回の反省を活かしてまた挑戦したいと思っている。

北村紗衣

8月30日に行われた2011年度西洋中世学会若手支援セミナー企画はあいにくの猛暑に見舞われたが、多くの参加者が昼の強い日差しと午睡の誘惑を押して慶應義塾大学日吉キャンパスに集った。夏期休暇中ということで出張から帰ったばかりの者や留学から一時帰国中の者などもおり、また学会員でなくとも出席できる催しであったため、参加者の顔ぶれは多様であった。

前半のポスター・セッションの目的はカジュアルながらも深い議論を促進することである。多くの発表者がポスターの前で話した後に質問を受け付ける形式をとっており、配布資料を用いる者もいた。疑問があれば発表者が解説をしている途中でもその都度話を遮って質問をすることができるなど、発表トピックについてよく知らない者でも理解を深められる一方、専門的知識のある者は細部について綿密な議論を持ちかけることも可能であり、聞き手にとっては気軽に議論が楽しめる形式であると言えるであろう。アンケート等の感想を見る限り、発表者にとっても口頭発表に比べてより深い議論ができるという利点があったようである。

このようにポスター・セッションには大きな長所がある一方、いくつか改善すべき点も見受けられた。ここでは二点を指摘しておきたい。ひとつは運営に関する技術的な問題である。今回はあまり見られなかったが、美術史の中でも大量の図像を使用する分野、あるいは動画・音源を使う演劇史・音楽史などはポスター以外にラップトップなどのプレゼンテーション機器を持ち込む必要があると考えられ、今後は電源の確保や再生機器が発する音への対策など技術的な面で取り組まねばならない部分があるであろう。もうひとつの課題として発表者のプレゼンテーション技術の向上をあげておきたい。ポスター発表は人文系ではあまり行われていない発表形態であるため、慣れない画像資料や文献表などの扱いに苦心している発表者も見受けられた。発表者はポスターのみならず配布資料についても情報の盛り込みすぎを避けてポイントをひとつにしぼり、煩雑な部分については図表を活用する必要があるであろう。

後半に実施された原基晶さんのトークは時代考証の話題から始まり、最後は原さん本人の生まれたばかりの息子にからめて生と死の話題へ発展する印象的な講演であった。しかしながら、時代考証に関する技術的問題やフィクションにおける歴史の扱いを主題とする催しであるにもかかわらず、前半で細かいイタリア史の知識に関する話題が多かったのは、必ずしも漫画を読んでいるわけではない聴衆(ネット中継の聴講者も含めて)にとってはわかりづらかったようにも思えた。このようなイベントは作り手と読み手が対面で切り結ぶ稀な機会であり、今後このような催しが再び行われるならばさらなる双方のインタラクションを期待したいところである。

今回のセミナーは、改善点はいくつか見受けられるものの全体としては学術情報の伝達について様々な示唆を与えてくれる有意義な催しであった。資料による裏付けがなく派手なプレゼンテーションだけで自らを売り込むニセ科学や歴史修正主義が跋扈する21世紀の社会においては、専門家でない人々に対して単純化を避けつつわかりやすく証拠を提示しコミュニケーションをはかる能力がますます研究者に求められるようになっている。今後もこのようなプレゼンテーションの意義を考えさせられる企画の継続を期待したいところである。

アンケート

ポスター・セッションについて
[報告者の感想]
  • 机や椅子がもっとある会場であれば、より密な発表ができたかもしれません。レジュメを用意しても、立ち見ですと、見る方も大変そうでした。しかしながら、本当に素晴らしい試みだと思いました。お世話になりました。 → 聴衆のためのイスを用意するとポスター・セッションではなくなってしまうので、ご理解いただければ幸いです(実行委員会)
  • ポスター・セッションで発表の機会をいただき、ありがとうございました。若手に参加しやすい雰囲気で、とても有意義なものでしたので、ぜひ次回もやっていただきたいです。
  • ポスター・セッションでは様々な方と意見交流ができ、非常に有意義な経験をさせていただきました。
  • ポスター・セッションは非常に良かったので、今後も続けていただきたい。
  • 2時間のポスター・セッションは短いかと思ったが、これより長ければ、疲労困憊して、トークを聞く余裕がなかったと思うので、これぐらいの長さで十分かと報告者としては感じたが、参加していろいろなポスターを見る側からすれば、もう少し長くても良いかもとも考えた。
  • ポスター・セッションは、広く話を聞いてもらえる機会として良い。だが、発表者が疲れるので、うまく休みがとれる時間がほしい。
  • ポスター・セッションには初めて参加したが、今までにない試みでとても面白かった。発表者としては、ポスターの作成や印刷などにも手間取ってしまったが、ノウハウを学んで、また機会があれば参加したい。発表をすることに精一杯で、他の報告者の方々の話を聞けなかったのが、唯一残念な点だった。
  • 私はポスター発表者でしたが、立ち振る舞い方が難しく、他の方の発表を聞くことができませんでした。もちろん、私の責任ですが、こういう機会がもっとたくさんあれば、と思います。
  • ポスター報告者として、たいへん良い経験をさせて頂きました。
  • 報告者も他の発表を見られるような、時間割などの構成がほしかったかもしれない。
  • 修士一年という身で参加させて頂いて、自分の未熟さを痛感した。ポスターも口頭説明も提示の仕方をよりわかりやすくしたいと思った。
  • こうした発表は前例がなく、どのようにするのかわからぬまま参加しましたが、ポスターを見て頂いた方からの様々な質問から、今まで自分では気づくこともなかった着眼点や考え方を知ることができたと思います。ポスター製作のガイドラインなど、とても丁寧にウェブサイトに掲載していただいたのは、本当に参考になりました。
  • 専門外の方々にたくさん興味をもっていただき、修士論文にむけて学ぶことが多く、直接的な対話の良さを実感できました。
[参加者の感想]
  • 参加人数との兼ね合いがあると思いますが、今日ぐらいの人数では非常に良かったと思います。中世学会って、会員の専門領域は多岐にわたっていいますが、思ったよりも統一感があって、専門から少しずれる私(イタリア文学専攻)でも様々な発表者に話を聞くことができました。
  • ポスター・セッションでは、様々な時代・地域の研究を研究者の方から直接お伺いすることができ、たいへん勉強となりました。今後もこのような機会がありましたら、参加させて頂きたいと思います。
  • ポスター・セッションに参加するのは初めてだったんですが、プチ・ゼミのように発表者の方とじっくり話せるので、とても楽しく、ためになりました。
  • 初めてポスター・セッションの形式の発表を聞いたのですが、直接報告者の人とやりとりしながら、話を聞くことができてよかったです。今後、他の学会でも導入していけばおもしろいと思います。
  • 発表者のみなさんがとても熱心に対応してくださってよかったです。また、この試みをつづけていっていただければ幸いです。たいへん勉強になりました。ありがとうございました。
  • カジュアルな議論ができ、よい会でした。
  • 人文系の分野で、ポスター・セッションをやるのは良い試みだと思う。文字が多いものになるのは仕方ないかもしれないか?
  • 事前にポスター・セッションに出る方、テーマがわかるとうれしいです。
  • もっと多くの人のポスターがみられるとよいと思う。時間の工夫、2組で交替制にするなど。
  • 非常に勉強になり、楽しかったです。ポスター・セッションはもう少し時間があっても良いと思いました。
  • 事前に題目がわかれば、限られた時間で効率よく回れるのでは? 前回のように、事前にプレゼンテーションの時間があればなおよい。
  • ポスター報告内容については、事前に公開した方が良いかと考えます。
  • ポスターの文字の大きさや説明時間などはまだまだ工夫の余地があるかもしれません。
  • ポスター・セッション:基本的には時間不足(報告者側の説明方法にもよるか)、トーク:話の方向性(構成)をプロジェクタなどで示した方が聞き手にはわかりやすいのではないか。
  • もう少しポスター・セッションの時間をとってほしかった。
  • 時間が短すぎたと思う。
  • ツダリ用のWi-Fiがあるといいです。
原さんのトークについて
  • 原さんのトークにおける「経済に奉仕する必要はない」というお言葉、胸に刻んでおきたいと思います。
  • 原さんのトークも、考証の現場の興味深い話が聞けてよかったです。
  • 原先生のお話がとても面白く、歴史の話も多く交えて頂けて良かった。
  • 原さんのトークは『チェーザレ』のファンとして、どういうシーンやどういう考えに制作者の方々がこだわっていらっしゃるのかがわかって、非常に興味深く、楽しく聞かせて頂きました。
  • 原さんはイタリア留学されたり、ダンテを訳していらっしゃるんですね。なのに、とてもナイーブな考えをお持ちのようでおどろきました。たのしかったです。ありがとうございました。
  • 漫画で語る歴史というのをシリーズ化してほしい。紹介すべきすばらしい漫画はまだまだ有るはず。
  • 「今なんでやる必要あるの?」「人が経済に奉仕する必要はない」「後世に良い世の中を残したい」「だから携わる」「純文学やる」。素敵な言葉ですね。今日来てよかったです。お子さん誕生おめでとうございます。「志を持って頑張っている」。研究者の皆さまの発表のあとに、原先生のトーク、良い順番だと思いました。左記の言葉に背中を押されて、さらに深く興味深い発表がされることを楽しみにしています。
  • 真剣なお話に圧倒されました。とても充実した時間が過ごせました。
  • 大変有意義な話を聞くことができました。運営にあたられた方々に感謝しております。

以上

2010年度会員年間業績を公開しました

2010年度会員年間業績リスト(2010年1月-12月)を公開しました。
 広い意味での西洋中世(古代末期-近世、イスラーム、ユダヤ、中東アジアなども含む)に関する刊行された業績をお知らせいただいたものです(氏名=五十音順)。
なお、リスト作成に際しては、会員の皆様にお手数いただきました。お礼申し上げます。

2010年度 若手支援セミナー報告記

 2010年度の若手支援セミナーは、2011年3月4日(金)に東京大学駒場キャンパスで開催されました。

 今回の若手セミナーは「文書館で西洋中世研究」をテーマとして、大学院生を中心とした若手研究者にとって関心が強い「文書館」の利用方法や、そこで得た史資料の分析方法などについての講演や報告、そして会場全体によるラウンドテーブルが行われました。平日にもかかわらず、62名(内、学部・大学院生は35名)の方々にご参加いただきました。厚く御礼申し上げます。

 また、このセミナーでは実験的な試みとして、講演と報告をインターネット中継いたしました。最大時は、50名の方々にご覧いただきました。

 ここでは、参加いただきました大学院生の方々の参加記と、当日採りましたアンケートの結果を掲載いたします。

[参加記](五十音順)

河野雄一

 春一番から一週間後のまだ肌寒さの残る春は弥生の3月4日、東京大学駒場キャンパスにおいて若手支援セミナー「文書館で西洋中世研究」が開催されました。今回のセミナーでは、新奇の試みとしてインターネット同時中継も導入され、私自身も職場で当該中継を少し拝見させて頂いてから実際に会場に行って報告を聞かせて頂く運びとなりました。一昨年の史料講読セミナーや若手交流セミナーでのポスターセッションなどと同様に、比較的新しく誕生した学際的な学会として積極的に新たな試みに挑戦する姿勢が窺われます。

 会場に着くとすでにほぼ満席でセミナーの盛況ぶりを実感しました。実際に聞くことができたのは大貫俊夫氏と中谷惣氏の報告のみであったため、佐々井真知氏と山本成生氏の報告を十分に聞くことができなかったのは心残りですが、普段は専ら校訂版テクストに基づいて研究を行っている異分野の身には、実際に現地の文書館で史料収集をされている歴史学の研究者の方々からその利用方法について直接お話しを伺うことができ、非常に貴重な体験となりました。異なる学問分野の研究手法であっても、そうした手法を自らの分野に取り入れることで学問の幅が広がる可能性を感じました。

 各報告の後のラウンドテーブルでは、赤江雄一氏の司会のもと、偽文書の確定、第三者による史料の正当性の検証に伴う困難といった問題、Webが発達した状況において史料やその訳などが共有される可能性、研究生活の心構えなど、フロアから出た質問やコメントについて活発な議論が交わされました。とりわけ、偽書も一つの歴史的産物であるということに関連して、岡崎敦氏が「人間はまちがえる。だからこそ研究の余地がある」という趣旨のことをおっしゃっていたのが印象的でした。また、文書館に行く前の調査の程度(事前に入念に調査or現地に行ってひたすら史料と向き合う)やデータ整理の仕方(欧文or日本語)などの点では報告者間でスタンスが異なり、興味深く聞かせて頂きました。ラウンドテーブルでは、いかにして知を継承し、いかにして世界に発信していくかということが研究者の課題として浮かび上がったように思いました。

 ラウンドテーブル後には懇親会が開かれ、研究者相互の親睦が深められました。今回のセミナーは西洋中世学会の第一回大会と同じ会場であったため、当時の興奮がときを経たいま静かに思い返され、同時に、学会の今後の潜在的な可能性の大きさが伝わってくるものでした。

坂本邦暢

 2010年度の若手支援セミナーの目的は、海外の文書館を利用して研究する際に必要となる基本的情報の共有であった。1人の講演者と4人の報告者が自分の調査経験をもとに文書館での作業をいかに学術的成果へと結実させていったかを率直に語ってくれた。その全体的報告はすでに別の場所でまとめられているので、ここではセミナーでかわされた議論のなかから読者に特に伝えられるべきと思われる2点に絞って記録として残しておくことにしたい。

 第1点は報告者の多くが文書からえられた情報を表にまとめることの重要性を説いていたことである。これは読者には自明のことと思われるかもしれない。しかし科学や哲学の歴史を調査している私には強い印象を残した。このような点が強調されるのは扱う資料の性質に由来するのだと思われる。たとえば裁判、商業取引、遺言といった文書はそれぞれに一定の記述パターンが見られ、調査に際してはそのパターンにそって情報を抽出し、表の形で集約することが不可欠となる。思うにこの文書から表への移しかえの技法は(古書体学と並んで)、文書館を用いる研究の核をなしながら、先達から後進への伝達が難しいという性質を持つ。というのも最適な表のあり方は史料の性質や研究者の着眼点・好みによって決定されるため、一般的に利用可能なフォーマットのようなものはないからである。しかしそれでもたとえば学会内部で史料の種類ごとに研究者たちが作成した表を共有し、参考に供することは有益なことのように思われる。

 表を作成することは一定量の文書群を読み解くことを前提とする。ここで記しておきたい第2の点はこの文書群の選定に際して指導教員が果たすべき役割にかかわる(以下の点は報告者である大貫俊夫氏の問題提起を私が理解した限りで敷衍したものである)。論文作成指導ではしばしばテーマを明確にすることが最初に求められる。しかし本誌の読者の多くが経験していることと思われるが、歴史研究では史料の読み込みをつうじてはじめて主張が明確化することが多い。とりわけ当該領域での研究経験の浅い若手の場合にこの傾向が著しいように思われる。したがってそのような若手がまず必要とするのは、力量と時間の範囲内で手に負える文書群の選択を可能にしてくれる助言である。このことによく留意すべきというのが、支援する側の教員が本セミナーから学ぶべき点であったと思われる。

 以上で取りあげた2点はともに研究の成果ではなく過程にかかわる。それは若手の成長にとって論文作成の実践をかいま見ることは、完成した作品を読みこむことに劣らず重要だと私が考えるからである。そのような成長を可能にする場として本セミナーのような先駆的試みが行われたことは、因習から自由な西洋中世学会ならではのことであった。一参加者として実現に尽力されたすべての人に感謝したい。

アンケートの結果

1. ご身分
a) 学生:30名 b) その他:13名
2. このセミナーをどうやって知りましたか?(複数回答あり)
a) 学会誌・学会ホームページ:18名 b) ポスター:2名 c) 友人・知人より:12名 d) インターネット:4名 e) その他:0名
3. このセミナーの内容はどうでしたか?
a) とても良かった:21名 b) 良かった:12名 c) 普通:1名 d) あまり良くなかった:0名 d) 悪かった:0名
4. このセミナーの内容は、自分のレベルに合っていましたか?
a) 高度すぎた:0名 b) やや高度だった:8名 c) 丁度良かった:21名 d) やや簡単だった:2名 e) 簡単すぎた:0名
5. セミナーの形式(プログラム)はついてどうでしたか?
a) 多すぎた:0名 b) やや多かった:4名 c) 丁度良かった:26名 d) やや少なかった:2名 e) 物足りない 無回答:1名
備考:「ただし、もう少しお一人お一人の話をじっくり聞きたかった気が。」(その他)
6. インターネット中継についてはどう思いますか?(複数回答あり)
a) 良い試みだと思う:26名 b) 慎重にやるべき:1名 c) プライバシーが心配:1名 d) ネット中継があるなら来ない:3名 e) ネット中継があっても来たい:6名 f) 大会等も中継して欲しい:9名 g) やるべきでない:0名 h) その他
「技術的な難しさ(トラブル等)が心配です」(学生)
「同時中継に加え、配布資料のアップロード等を検討しても良いのでは」(身分)
「セミナー後に見れるようにして欲しい」(学生)
「自分は見ていないので、コメントはできません」(その他)
「配布ペーパーや会場設営等、現場参加のメリットによる差異化を強調するのがよいかと考えます」
「良い試みだが、何回か試験的にしてみてから、本格導入の是非を検討して欲しい」(その他)
「中継に関するアナウンス(例:会場は映らないなど)もあったので良かった」(学生)
無回答:3名
7. どんな意見でも結構です。御自由にお書きください。
「楽しかったです」(その他)
「まだ国外に史料を求めに行ったことがなかったので、どのような準備をしたらいいか、どのような流れで閲覧するかを知ることが出来とても勉強になりました。このようなセミナーがありましたら、また参加したいです。」(学生)
「今後もこのような機会があれば是非参加させていただきたいと思います。」(学生)
「研究手法や文書館の利用等についての学内の授業等では学べないことも多いので、貴重な体験になりました。」(学生)
「自分にはレベルとしてやや高度ではありましたが、その先がイメージできたという意味で『丁度良かった』です。」(学生)
「個人の研究を基にしていてとても面白かったです。ネット上で事前にスケジュールが公開されていると良かったと思います(こちらが把握していなかったら申し訳ないです)。席をつめれば、全員机を使えたのかなを思いました。」(学生)
「新しいツール(ソフトなど)の話に教えられました。」(その他)
「若手の研究者たちから多くのことを勉強させていただきました。有難うございました。」(その他)
「大貫氏の報告にあったように横文字でメモを書く訓練は必要だと思う。」(その他)
「修士前後の、特に分野外の『若手』研究者が耳にすることを考えれば、できるだけ専門タームについて分かり易い解釈を付すことを予め統一しておくのがベターではないか(例:『カルチレール』。歴史研究者以外。特にフランス語圏との接触が少ない場合、修士レベルで史料としての性格を予知していることを前提としない方が良いのではないか)。『若手』セミナーとしての性格に一層留意していただけると、ハードルがより低くなると思います。」(その他)
「大変有意義かつ参考になりました。どうもありがとうございました。」(学生)
「次はぜひ、英仏独伊以外も(東欧など)。」(学生)
「以前開催された史料講読セミナーは参加できなかったので、ネット中継でまたやってもらえたらと思います。今回と、その史料講読セミナーは数年に一度やってもらいたいです。著作権で問題が解決できれば、レジュメもPDFでみれるようにしたら、ネットとあわせて便利と思いました。」(その他)
「もう少し文書館へのアクセスのための情報が欲しかったです。」(その他)
「個人では調べきれない点まで御説明頂き、ありがとうございました。」(その他)
「スタッフの皆様、おつかれさまでした。すばらしい企画・運営だったと存じます。今回のような企画・意図を考えますに、今後はいかにして学部も、修士をひきこんでいくか、という点が課題になるかもしれません。」(その他)
「今回で終わらせず、第2弾、第3弾…と継続して欲しい(その際、年々入る新しい学生会員のためにも、入門的・手引き的性格は残すと良いと思う)。日本国内の図書館が所蔵する文書・史資料に焦点を当てたワークショップなどがあってもよいと思う。」(その他)
「データ管理や電子辞書etcとても参考になりました。また現在進行形の研究のお話が聞けたのが興味拭かったです。」(学生)

以上です。次回以降の若手セミナーも、どうぞよろしくお願いいたします。

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